「トラムにゆられて」

train passing シルバニアファミリー
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ステラさんは、街のアトリエでドレスを作るお仕事をしています。今日は、ちょっと特別な日。村に住んでいる妹のフレアちゃんが、ひとりで街に遊びに来るのです。

「ステラおねえちゃん!」
トラムの停留所で待っていたフレアちゃんが、うれしそうに手をふります。

「よく来たわね、フレア。ひとりで来られて、すごいじゃない」
「うんっ! トラムのおじさんがとってもやさしかったの!」

ステラさんはにっこり笑って、そっと手をにぎります。

「じゃあ、トラムに乗って、街をぐるっとまわってみようか」

ふたりは木のベンチにこしかけ、トラムにゆられながら、にぎやかな街の景色を楽しみます。パンやさん、はなやさん、おもちゃやさん――フレアちゃんがまだ知らないお店がいっぱい。

「ステラおねえちゃん、きょうはなにをつくるの?」
「春のドレスよ。やさしい色で、ふわっとしたスカートにしようと思ってるの」

フレアちゃんは目をかがやかせて言いました。
「フレアも、いつかドレスつくってみたいな」

「きっとできるわ。すきって気もちが、いちばんたいせつだから」

そのとき――。トラムがガタンとゆれて、フレアちゃんが大事に持っていたスケッチブックが床に落ちてしまいました。

「あっ……!」
ページがひらひらとめくれて、フレアちゃんの絵が見えました。うさぎのドレスや、お花のぼうし、とてもやさしい色でかかれています。

ステラさんはそっとスケッチブックを拾って、ページをめくりました。

「これ、ぜんぶフレアがかいたの?」
「うん…… でも、ぜんぶへたっぴで……」

ステラさんは、やさしく首をふりました。

「そんなことないわ。とってもすてきよ。わたしにもこんな風にかけたらって、思うくらい」

フレアちゃんのほっぺが、ほんのり赤くなります。
「えへへ……ステラおねえちゃんに見てもらえて、うれしいな」

ふたりは、まどのそとをながめました。
春の光にきらめく街と、トラムのやさしい音――。

「また来てもいい?」
「もちろんよ。フレアが来てくれると、街がもっとやさしく見えるの」

チリンチリン――。
トラムは、今日も姉妹を乗せて、あたたかな午後を走っていきました。

おしまい。

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